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グルメ漫画ってどうやって作っているの?『中華一番!』小川悦司先生インタビュー

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 グルメ漫画の金字塔『中華一番!』(作:小川悦司)。『真・中華一番!』のアニメ化も決定し、まさに勢いにのっているシリーズ。


 この『中華一番!』シリーズで出てくる料理はみんなダイナミックで美しく、おいしそうですが、これらの料理がどのように生み出されているのか、レシピはあるのか、料理のアイデアはどこから得ているのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

 

 ということで、今回は『中華一番!』シリーズの作者である、小川悦司先生にインタビューをしてきたので、お届けいたします。

 

――そもそも、『中華一番!』というグルメ漫画を描くことになった経緯を教えてください。

小川悦司先生(以下、小川):もともとは、中国の歴史や文化に興味があり中国を舞台にした漫画が描きたくて、編集部に作品を持ち込んできました。でも、色々な話を担当編集としているうちに、「中国を舞台にしたグルメ漫画を作りましょう」となりこの作品を描くことになりました。でも、最初は「グルメ漫画!?」と自分の中ではかなり想定外でしたね。 

 

――そんな想定外のグルメ漫画を描くことになった小川先生ですが、もともとご自身で料理をしていたり、調理の知識をお持ちだったりしたのでしょうか。

小川:食べることは好きだったので、大学4年生の時は就職活動では食品メーカーをまわったこともありました。でも、お恥ずかしながら作ることは本当にダメで……ほとんど料理はしてきませんでしたし、知識も全くなかったので困りました。そうしたら、担当編集から「1週間で勉強してください」と『週刊朝日百科世界のたべもの(朝日新聞社)』という分厚い本を14巻分渡されたんです。それを読んで、どの地方にどんな料理があるのか、調理具や食材など、ざっくりと頭に入れました。ほぼ徹夜でしたね(笑)。

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たくさんの資料で知識をストックしていく。押田洋子『中国お皿の上の物語』東京書籍

 

――知識を得たのち、実際グルメ漫画としての『中華一番!』シリーズはどのように展開させていったのか教えてください。

小川:「中国が舞台」というところまでは決まっていたので、次は時代設定を決めようとなって。そもそも時代劇にしようと考えたのは、グルメ漫画としてのエンターテイメント性を誇張するためだったんです。時代劇にすることで、規格外の料理や調理法を描けるかなと。ただ、歴史をさかのぼりすぎると中華料理の種類が出揃わなくなるので、清王朝あたりに時代を設定をしました。そのうえで、書物で当時の食材や調味料を調べながら作品を書いていきました。もちろん、調べきれない細かいところもありますから、そのような場合は、既存のレシピを組み合わせながら、想像を膨らませて描いています。

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――毎回、『中華一番!』シリーズに出てくる料理はどのように決めているのでしょうか。 

小川:ストーリーの中でどの料理を扱うかについては、まずおおまかな並びを決めておきます。同じジャンルやカテゴリーの料理が続いてもダメですからね。そのうえで、キャラクター、土地柄、舞台設定にあわせてストーリーに登場させたい料理を絞り込んでいくんです。四川に行って北京ダックを食べるのもおかしいですから、登場する料理には必ず必然性を出すようにしていたり、マオ達が行き着く土地にあるものや、有名なイベント、その回に登場するキャラクターの特性にあわせて料理を組み合わせています。もちろん、「おもしろい調理法がある」という情報を聞いて、調理法からストーリーを作ることもあります。思いついたらその都度、作品に取り入れるようにしています。

 

――作中に出てくる料理の考案はどうされているのでしょうか。

小川:デフォルメされた料理が多いので、全てに完璧なレシピがあるわけではありません。でも、あまりにもデフォルメしすぎるとリアリティがなくなって、説得力にかけてしまうので、料理の肝となる部分の工程はメモとして残しています。

中華料理を食べに行ったり、本やテレビを見ていて「おいしそうだな」「すごいな」と印象に残ったものは料理だけでなく盛り付けも含めできる限りメモしていきます。そして、それらをモチーフにして組み合わせながら、アレンジして料理を作り上げていくことが多いですね。 

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小川先生のメモ。

 

――実際に中華料理を食べられる、ということですが、よく食べ歩いていらっしゃるのでしょうか。

小川:はい。もとと食べることが好きなので、中華料理やラーメンをよく食べていたのですが、連載が始まってから食べ歩くことはやっぱり増えましたね。担々麺は10軒ほどのお店で食べて、中国山椒の液体油をかけて自分でも作ってみました。また、調味料を加える系のものは試しやすいので、家でも時々作っていますし、中華の出前を頼んで、家に揃えてある調味料を使ってアレンジしたりもします。

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――楽しそうですね!特にお好きな中華料理は出来たりしましたか?

小川:やっぱり、作品を描き進めて、扱う食材や当時の文化を調べていくうちに、中華料理の世界にどんどんのめりこんでいきますよね。好きな中華料理は、「麻婆豆腐」と豚肉やキュウリに甜麵醬や豆板醤の甘辛ソースを絡めた「雲白肉(ウンパイロー)」です。あとは、ラーメン二郎も(笑)。

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――ゼロからと言えないまでも、レシピはご自身で作り上げるということですが、監修者などは入っているのでしょうか。

小川:監修としてはいませんが、知り合いに台湾出身の料理人がいたので、一時期、難しいレシピを作るときなどは相談にのってもらったことはあります。

やはり、いてくれたほうがいいな、と思うこともあるのですが、『中華一番!』はファンタジー要素の強いグルメ漫画なので、監修者が入ることで「このレシピや調理方法は現実的に無理」となってしまうこともあるのかなと思っています。「現実的に無理」というのが、漫画を描くうえでの足枷になってしまってはいけないと思い、『中華一番!』シリーズには監修者を入れないことがこだわりかもしれません。

 

――他に、グルメ漫画を描くうえでこだわっていることや、あとは大切にしていることがあれば教えてください。

小川:最近のグルメ漫画は、カテゴリーがかなり細分化されていると思います。読者にとってより身近な料理を扱うものや、再現可能なレシピを紹介したものなど、いろんなカテゴリーのグルメが出揃っていますよね。『中華一番!』に関しては、先ほども話したように、ファンタジー要素を強くして楽しくみせることを重視しています。

リアルな再現レシピがない分、漫画で正確な味を伝えるのは難しいので、「どうおいしいか」までは伝わらないにしても、「どれくらいおいしいのか」は伝わるように絵に落とし込むことにこだわっています。食べた人の表情・リアクションでおいしさが伝わるように、心象風景の描き込みもできる限り広げて描いています。

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――「どれくらいおいしいのか」を絵に落とし込むために、具体的にどのような表現をされているのでしょうか。

小川:僕は、湯気・シズル感・油の艶感は大事にしています。湯気の感じを出すために、とにかく仕上げの作業には時間をかけていますね。それに、油の艶も細かく描き込むようにしています。刻んだり、炒めたり、揚げたり。調理人がとにかく動く中華料理はダイナミズムの料理だと思っているので、そこをいかに表現するかも大切にしています。

 あとは、手元をしっかりと描くようにはしています。これは、中華料理に限ったことではないのですが、食器の持ち方がおかしかったり、調理人の料理をする手つきが不安定だと、おいしそうには見えないし、「こんなのでちゃんと料理は作れるのか」と説得力に欠けてしまうので、手元は丁寧に描くようにしています。

 グルメ漫画として、中華一番がどのような立ち位置でいるのか、なにを重視していくのかを意識しながら、漫画を展開させています。 

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――そのこだわりのおかげで、美味しそうな料理の数々が生まれているんですね!本日は、貴重なお時間ありがとうございました。

 

 グルメ漫画の作り方はきっと、レシピのように色々あるかもしれませんが、小川先生は料理を作ることが出来なくて、監修者がいないことが逆に、作中のダイナミックな料理の数々を生み出していることが分かりました。

 

 グルメ漫画として楽しく見せることを重視しながらも、リアリティも大事に調整していくという先生のこだわりをお伺いし、マオの「おいしい修行」の行く先はもちろん、今後登場する料理からもますます目が離せませんし、まだ読んだことのない方は、ぜひ美味しそうな料理の数々に注目しながら読んでみてくださいね!

 

(瀧戸詠未)